村上ゆかりの日記 (浜田聡参議院議員秘書)

浜田聡参議院議員公設秘書。事務所のお仕事で調査した資料などをご紹介。

【調査資料】各国の国営放送や公共放送が国益を損なう報道を行ったら罰則等はあるのか

suenagayukari.hatenablog.com

上記ブログに関連した調査資料です。

浜田聡事務所より国会図書館へ下記を調査依頼しました。

 

【依頼内容】

各国の国営放送や公共放送が国益を損なう報道を行った場合に罰則や何らかの措置があるかどうかについて
①各国の国営放送や公共放送が国益を損なう報道を行った場合に罰則や何らかの措置があるかどうかについての詳細
②各放送メディアにいわゆるスパイや他国の諜報員等が入り込まないように対策されている国があれば、その制度の詳細 

 

【回答】

①各国の国営放送や公共放送が国益を損なう報道を行った場合に罰則や何らかの措置
があるかどうかについての詳細


オーストラリアの 1992 年放送法では、国際放送免許について、外務大臣国益(national interest)に反すると判断した場合に、正式な警告、免許の停止・取消を行わせることができることが規定されています(第 121FL 条)(資料 1)。
英国の公共放送 BBC については、イラク戦争をめぐる報道に関連して、独立委員会が調査を行った例(Hutton Inquiry)があります(資料 2)が、法令上に根拠を有するものではないようです。
中国では、「国家の安全・名誉・利益を害するもの」を内容とする放送は禁じられています。放送は、共産党と政府主導の重要事業で、共産党や政府の方針等を国民に伝え、指導する役目が付与されており、番組には放送前に審査があるとされます(資料 3)。
なお、「国益を損なう報道」に言及されているわけではありませんが、一般論として、
各国の公共放送においては、内部監督機関、独立規制委員会等の規制監督機関が番組基
準等の遵守を監督しており、違反した場合には調査が行われ、罰則が科される場合もあ
ります。

 

▼参考

・William Twining, “The Hutton Inquiry: Some Wider Legal Aspects.” W.G. Runciman eds.,Hutton and Butler: lifting the lid on the workings of power, New York : Published for the British Academy by Oxford University Press, 2004, p.45.
・各国の制度概要について以下をご参照ください。

「世界の公共放送―制度と財源報告 2018」『NHK 放送文化研究所年報』62 号,2018,pp.173-303.

世界の公共放送 -制度と財源報告2018|NHK放送文化研究所

※イギリスの公共放送と規制機関について

新特許状下のBBC統治システム(資料抜粋)

BBC の Ofcom による対応については、以下に詳細が説明されています(罰金について p.12)。

Ofcom, “New procedures for handling content standards complaints, investigations and sanctions for BBC programmes,” 2017.3.29.

https://www.ofcom.org.uk/siteassets/resources/documents/consultations/uncategorised/93904-ofcom-and-the-bbc/procedures-bbc.pdf?v=335899

 

※フランス公共放送の外部規制機関との関係

※ドイツの公共放送の規制と監督

※イタリア公共放送と独立規制機関AGCOMとの関係

※スペイン公共放送の規制と監督

※韓国の公共放送の規制と監督

※台湾の公共放送の規制と監督

 

②各放送メディアにいわゆるスパイや他国の諜報員等が入り込まないように対策され
ている国があれば、その制度の詳細


現行の制度上で、放送メディアに他国の諜報員等が入り込まないように対策されている国は見当たりませんでした。
BBC では、1990 年代まで、情報機関(MI5)による就職希望者の審査が行われていたという指摘があります(資料 4)。
また、放送に対する外国資本の影響力を排除するため、各国で外資規制が行われており、その中には、外国人の役員等への選任を制限するものもあります(資料 5)。
外国によるプロパガンダの防止の観点からは、ロシアの国営テレビ RT 等の EU 域内での提供を禁止した例があります(資料 6)。 

 

▼参考

マスメディアと防諜・安全保障について扱った文献として以下のものがあります。

福田充「テロリズムとメディア報道」『海外調査情報』11 号, 2015, pp.9-15.

https://nihon-u-gs.jp/journalism/_cms/wp-content/uploads/2015/07/a85bb4de62ff136473486b31a0a69e04.pdf

寺倉憲一「緊急事態とマスメディア」『主要国における緊急事態への対処―総合調査報告書―』国立国会図書館調査及び立法考査局, 2003, pp.184-204

https://chosa.ndl.go.jp/download/20030709/0000038957041.pdf

大塚一美「米国における防諜法と取材報道の自由」『マス・コミュニケーション研究』86 号, 2015, pp.83-102.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/mscom/86/0/86_KJ00009702255/_pdf/-char/ja

 

▼資料

資料1. Broadcasting Services Act 1992, (Austl.)

Federal Register of Legislation - Broadcasting Services Act 1992

資料2. 小林恭子『なぜ BBC だけが伝えられるのか―民意、戦争、王室からジャニー
ズまで―』光文社, 2024, pp.184-193.

※紙資料の為ここでは割愛

資料3. 「中華人民共和国(People’s Republic of China)」総務省ウェブサイト

中華人民共和国(People’s Republic of China)

資料4. “The vetting files: How the BBC kept out ‘subversives’,” 22. April 2018. BBCwebsite

The vetting files: How the BBC kept out ‘subversives’

資料5. 落合翔「放送事業者に対する外資規制―規制をめぐる国内外の諸相―」『調査と情報―ISSUE BRIEF―』No.1174, 2022.2.25.

放送事業者に対する外資規制 : 規制をめぐる国内外の諸相 - 国立国会図書館デジタルコレクション

資料6. 「EU,ロシア国営の RT と Sputnik を禁止」NHK 放送文化研究所ウェブサイト

EU,ロシア国営のRTとSputnikを禁止|NHK放送文化研究所