村上ゆかりの日記 (浜田聡参議院議員秘書)

浜田聡参議院議員公設秘書。事務所のお仕事で調査した資料などをご紹介。

【調査資料】家族間、親族間のトラブル(違法行為と思われる事案等)に警察や行政が介入できない事例の主な理由について

家庭連合信徒に対する拉致監禁・強制改宗問題について|ニュース|世界平和統一家庭連合

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浜田聡事務所に相談に来る事案のお話を伺っていると、「家族間、親族間のトラブルに警察や行政が介入しにくい」という点が挙げられそうに思いますが、具体的に何が障害となるのかについて、改めて整理しておこうと思い、参議院調査室へ調査依頼しました。

 

【依頼内容】

家族間、親族間トラブルについて、現行法令で、家族間の場合において警察や行政が介入しにくい、もしくは介入できない等の障害について、下記について関連する可能性のある法令と構成要件、可能な範囲で事件化した件数と、相談しにくい等の論点でまとめられた資料などがあれば頂きたい。

①監禁などの人権侵害がある場合

∟例えば、旧統一教会(家庭連合)で問題となっている拉致監禁問題は親族や家族から脱会屋が依頼を受けるケースが多いと聞きます。警察に相談しても対応してくれない等の話を聞く。

②いわゆる、同居親の承諾なく行われる子ども連れ去り等の事例

 

【回答】

(警察や行政が介入しにくい等の障害に関連する法令、構成要件等について)

① 監禁などの人権侵害がある場合

 ある行為が監禁罪(刑法第220条)の構成要件を充足した場合に、警察や行政が介入しにくい、もしくは介入できない等の障害としては、当該行為の違法性阻却事由が認められ、当該犯罪が成立しないといった事情が考えられる。

一般的に、監禁罪の違法性阻却事由は、法令行為(刑法第35条)によるものとして、刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)に基づく逮捕・勾留、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)に基づく入院措置(同法第29条等)があるとされている。また、法令上の要件を欠いた場合でも、正当業務行為(刑法第35条)、正当防衛(同法第36条)、緊急避難(同法第37条)、更には社会的相当性の範囲内の行為であるとして、違法性が阻却される場合もあるとされている。

  なお、宗教団体の施設内に19歳の実子を拘束し監禁した事案において、正当な親権の行使であるとする被告人の主張を排斥した裁判例(東京地判平8.1.17判時1563-152)があるが、これはやや特異な事例とされている。

 

② 同居親の承諾なく行われる子ども連れ去り等の事例

  子どもを連れ去る行為は、未成年者略取及び誘拐罪(刑法第224条)の構成要件を充足する可能性が考えられるが、監禁罪の場合と同様に、警察や行政が介入しにくい、もしくは介入できない等の障害としては、当該行為の違法性が阻却され、犯罪が成立しない場合が考えられる。

  未成年者略取及び誘拐罪における主体に制限はなく、保護者も略取・誘拐行為をなし得るとされているところ、近時、自分の子に対する略取・誘拐行為の違法性の存否をめぐって、どのような事情があれば正当な親権又は監護権の行使として違法性が阻却されるかが問題となっている。最高裁は、

①まず、最決平15.3.18刑集57-3-371において、たとえ親権者であっても、他の親権者が監護養育している子をその生活環境から引き離して自己の事実的支配下に置けば、略取誘拐罪の構成要件に該当するものとし、ただ、犯行の態様等諸般の事情を考慮し、社会的相当性の範囲内にあると認められるときは、違法性が阻却されるという考え方に立つことを明らかにした上、

②次いで、最決平17.12.6刑集59-10-1901において、上記最決平15.3.18を前提にしながらも違法性阻却の判断枠組みをより精緻化し、

(a)子の監護養育上それが現に必要とされるような特段の事情が認められる場合か(但し、行為態様に相当性が認められることは必要)、又は、

(b)親権の行使として正当化できない場合であっても、なお家族間における行為として社会通念上許容される枠内に止まっている場合には、いずれも違法性が阻却される余地がある旨明らかにするに至った。その後、

最判平18.10.12判時1950-173は、祖父母が次女の下から当時3歳の孫を自宅に連れ戻した未成年者誘拐の事案について、被告人両名を実刑に処した1,2審判決を破棄自判して執行猶予を付した判決を言い渡しているが、これは上記②の(b)のような考え方が背景にあったものと考えられている。

  なお、令和6年5月9日の参議院法務委員会での審議において、DV防止法の一時保護制度が前提としているDVからの避難のための子連れ別居が違法と評価されない運用について、民法等の一部を改正する法律案(閣法第47号)によっても変わることはない旨の政府答弁がなされた。

 

(事件化した件数について)

児童虐待に係る事件(刑法犯等として検挙された事件のうち、児童虐待防止法2条に規定する児童虐待が認められたものをいう。以下同じ。)について、罪名別の検挙件数及び検挙人員総数の推移は、次のグラフのとおりである。

(出所)令和5年版犯罪白書

また、令和4年の児童虐待に係る事件の検挙人員について、被害者と加害者の関係別及び罪名別に見たものは次の表のとおりである。

(出所)令和5年版犯罪白書

(相談しにくい等の論点でまとめられた資料)

 相談しにくい等の論点でまとめられた資料は見当たらなかった。

 なお、厚生労働省のウェブサイトには、児童虐待の発生を予防するために必要な支援といった観点から相談対応の留意点等についてまとめられた資料があることから、アドレスを参考にお示しする。

 ○「子ども虐待対応の手引き 第2章 発生予防」(厚生労働省ウェブサイト)

https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/dv12/02.html

 

▼参考

刑法(明治40年法律第45号)(抄)

(正当行為)

第35条 法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

(正当防衛)

第36条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

(緊急避難)

第37条 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

2 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。

 (逮捕及び監禁)

第220条 不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

(未成年者略取及び誘拐)

第224条 未成年者を略取し、又は誘拐した者は、3月以上7年以下の懲役に処する。

 

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)(抄)

都道府県知事による入院措置)

第29条 都道府県知事は、第27条の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる。

2 前項の場合において都道府県知事がその者を入院させるには、その指定する二人以上の指定医の診察を経て、その者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めることについて、各指定医の診察の結果が一致した場合でなければならない。

3 都道府県知事は、第1項の規定による入院措置を採る場合においては、当該精神障害者及びその家族等であつて第28条第1項の規定による通知を受けたもの又は同条第2項の規定による立会いを行つたものに対し、当該入院措置を採る旨及びその理由、第38条の4の規定による退院等の請求に関することその他厚生労働省令で定める事項を書面で知らせなければならない。

4 国等の設置した精神科病院及び指定病院の管理者は、病床(病院の一部について第19条の8の指定を受けている指定病院にあつてはその指定に係る病床)に既に第1項又は次条第1項の規定により入院をさせた者がいるため余裕がない場合のほかは、第1項の精神障害者を入院させなければならない。

 

児童虐待防止法(平成12年法律第82号)(抄)

児童虐待の定義)

第2条 この法律において、「児童虐待」とは、保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう。以下同じ。)がその監護する児童(18歳に満たない者をいう。以下同じ。)について行う次に掲げる行為をいう。

一 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。

二 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。

三 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前2号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。

四 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう。)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

 

(参考文献)

前田雅英ほか編『条解 刑法〔第4版補訂版〕』(弘文堂、2023年)

法務省:令和5年版犯罪白書

 

いわゆる家庭内暴力、DV問題も家族間の問題という意味では共通点があるように思います。いずれも難しい問題だと感じています。